「後遺障害」という言葉は、大体の方が耳にしたことがある言葉かと思います。では、そもそも後遺障害とは何なのでしょうか。本ページでは、後遺障害の等級とそれぞれの慰謝料金額、また認定されるためにはどうすればよいのか、解説していきます。
1. 後遺障害とは
後遺障害とは、
- ① 交通事故が原因の障害である
- ② 将来においても、回復が困難と思われる
- ③ 存在が医学的に説明可能である
- ④ 労働能力の喪失・低下を伴う
- ⑤ 自賠法施行令に従い、等級の認定を受けている
以上の5つの要件を満たした障害のことを指します。
「後遺障害」と「後遺症」の違いが分からないという声をよく耳にしますが、「交通事故により怪我を負い、治療の末に残ってしまった症状」のことを一般的に「後遺症」と言い、その「後遺症」のうち、上記の要件を満たしたものを、等級認定された「後遺障害」として扱います。
また、傷害部分とは別に、後遺傷害部分は別途で損害賠償を請求できる対象としています。
2. 後遺障害の等級とは?
では、次に後遺障害の等級とは何なのでしょうか?
上記のように後遺障害が残ってしまったとき、その症状や程度に応じて認定される分類のことを、後遺障害の等級と言います。
後遺障害の等級は、1級~14級まであり、数字が小さくなるほど重症であり、その分、慰謝料額等の金額も高額となります。
2-1. 自賠責保険の認定基準と金額
● 介護を要する後遺障害
第 1 級 (保険金額の上限:4,000万円)
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第 2 級 (保険金額の上限:3,000万円)
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
● 後遺障害
第 1 級 (保険金額の上限:3,000万円)
- 両眼が失明したもの
- 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
- 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
- 両上肢の用を全廃したもの
- 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
- 両下肢の用を全廃したもの
第 2 級 (保険金額の上限:2,590万円)
- 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
- 両眼の視力が0.02以下になったもの
- 両上肢を手関節以上で失ったもの
- 両下肢を足関節以上で失ったもの
第 3 級 (保険金額の上限:2,219万円)
- 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
- 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 両手の手指の全部を失ったもの
第 4 級 (保険金額の上限:1,889万円)
- 両眼の視力が0.06以下になったもの
- 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
- 両耳の聴力を全く失ったもの
- 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
- 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
- 両手の手指の全部の用を廃したもの
- 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第 5 級 (保険金額の上限:1,574万円)
- 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 1上肢を手関節以上で失ったもの
- 1下肢を足関節以上で失ったもの
- 1上肢の用を全廃したもの
- 1下肢の用を全廃したもの
- 両足の足指の全部を失ったもの
第 6 級 (保険金額の上限:1,296万円)
- 両眼の視力が0.1以下になったもの
- 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
- 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
- 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
- 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
- 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの
第 7 級 (保険金額の上限:1,051万円)
- 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
- 両耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 1手の親指を含み3の手指を失ったもの又は親指以外の4の手指を失ったもの
- 1手の5の手指又は親指を含み4の手指の用を廃したもの
- 1足をリスフラン関節以上で失ったもの
- 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 両足の足指の全部の用を廃したもの
- 外貌に著しい醜状を残すもの
- 両側の睾丸を失ったもの
第 8 級 (保険金額の上限:819万円)
- 1眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの
- 脊柱に運動障害を残すもの
- 1手の親指を含み2の手指を失ったもの又は親指以外の3の手指を失ったもの
- 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの
- 1下肢を5cm以上短縮したもの
- 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 1上肢に偽関節を残すもの
- 1下肢に偽関節を残すもの
- 1足の足指の全部を失ったもの
第 9 級 (保険金額の上限:616万円)
- 両眼の視力が0.6以下になったもの
- 1眼の視力が0.06以下になったもの
- 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
- 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
- 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
- 両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 1耳の聴力を全く失ったもの
- 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの
- 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの
- 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
- 1足の足指の全部の用を廃したもの
- 外貌に相当程度の醜状を残すもの
- 生殖器に著しい障害を残すもの
第 10 級 (保険金額の上限:461万円)
- 1眼の視力が0.1以下になったもの
- 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
- 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
- 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの
- 1下肢を3cm以上短縮したもの
- 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの
- 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第 11 級 (保険金額の上限:331万円)
- 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
- 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
- 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
- 1耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 脊柱に変形を残すもの
- 1手の人差指、中指又は薬指を失ったもの
- 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第 12 級 (保険金額の上限:224万円)
- 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
- 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
- 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
- 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
- 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 長管骨に変形を残すもの
- 1手の子指を失ったもの
- 1手の人差指、中指又は薬指の用を廃したもの
- 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
- 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
- 局部に頑固な神経症状を残すもの
- 外貌に醜状を残すもの
第 13 級 (保険金額の上限:139万円)
- 1眼の視力が0.6以下になったもの
- 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
- 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
- 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
- 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 1手の子指の用を廃したもの
- 1手の親指の指骨の一部を失ったもの
- 1下肢を1cm以上短縮したもの
- 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの
- 1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
- 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第 14 級 (保険金額の上限:75万円)
- 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
- 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
- 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
- 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
- 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
- 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
- 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
- 局部に神経症状を残すもの
3. 後遺障害の等級認定について
後遺障害の等級認定を申請し、認定されることによって、
- 後遺障害を負った精神的苦痛への慰謝料
- 後遺障害により労働能力が喪失した分を補償する逸失利益
を受け取ることができます。
では、交通事故の後、後遺障害と認定してもらうためには、どのような手続きをとったら良いのか、手続きの流れについて説明をしていきます。
3-1. 申請方法について
申請方法には「①事前認定」と「②被害者請求」の2通りがあります。では、この2通りの違いはどのような点にあるのか、それぞれの申請方法について説明をします。
① 事前認定
事前認定は、加害者側の保険会社が申請手続きを行う手続きです。よって、被害者は、医師に作製してもらった後遺障害診断書などの必要書類を加害者側の保険会社に送付すれば、その他の手続きは加害者側の保険会社が全て行ってくれます。
● メリット
- 任意保険会社が代わりに手続きをやってくれるため、手間がかからず楽である
▲ デメリット
- 加害者側任意保険会社は、後遺障害等級認定がされるよう、積極的なアドバイス等はしてくれない
- 仮に等級が認定されたとしても、加害者と示談をするまでは賠償金は支払われない
② 被害者請求
被害者請求は、被害者自身で必要書類を収集したうえで、加害者が加入する自賠責保険会社に直接、後遺障害の等級認定を申請する手続きです。
この手続きは、自動車損害賠償保障法16条に規定されているので、「16条請求」と呼ばれたりもします。また、被害者請求の書式は、加害者が加入する自賠責保険会社から取り寄せることができます。
● メリット
- 後遺障害等級認定のための工夫や努力が可能である
- 等級が認定されると、加害者側と示談をする前であっても、自賠責から被害者に直接、認定された等級に応じた賠償金が支払われる
▲ デメリット
- 申請手続きを自分で行う必要があるため、手間や時間、費用がかかって煩雑である
このように、事前認定と被害者請求にはそれぞれメリット・デメリットがあります。以下、事前認定と被害者請求の違いを簡潔にまとめた表になります。
事前認定と被害者請求の違い
- 事前認定
【申請者】相手方の任意保険会社
【必要書類の準備】相手方の任意保険会社
【支払いのタイミング】示談成立後
- 被害者請求
【申請者】被害者本人
【必要書類の準備】被害者本人
【支払いのタイミング】等級認定後
それぞれにメリット・デメリットがあるため、個々に合った申請方法を利用するのがベストですが、総合的に見ると、被害者請求を推奨します。
なぜなら、自分で工夫や努力ができる分、事前認定よりも納得できる認定結果を得られる可能性が高まるためです。
私ども弁護士に相談いただくと、「後遺障害等級認定のために何を用意すればいいのか」「必要書類はどのように書けばいいのか」といったアドバイスももちろん行いますので、後遺障害等級認定でお悩みの方はぜひ弁護士法人きさらぎまで、一度ご相談ください。
3-2. 申請の時期・期間について
後遺障害認定は症状固定をむかえた症状に関する手続きなので、申請できるようになるのは、治療が終わって症状固定したタイミングからになります。
次に申請の期限ですが、目安になるのは、保険金請求の時効です。後遺障害認定を受ける目的は、保険金の給付であるため、保険金請求ができる期間内に認定手続きを済ませておかなければ、意味がありません。
現在、交通事故について、保険金請求の時効は自賠責保険、任意保険ともに3年間とされています。よって、申請のリミットは、症状固定時から3年間といえます。
では、申請から認定までの所要期間はどのくらいの日数になるのでしょうか。
症状固定をむかえ、後遺障害の申請を行うと、その後調査・認定が行われます。2017年の統計では、申請の約8割が30日以内に調査終了しています。
- 出典:「自動車保険の概況2018年度版」損害保険料率算出機構公式HP
この結果を踏まえると、申請準備に時間をとられなければ、およそ1~2ヵ月程度で認定をうけられるケースが多いということが分かります。
3-3. 認定の流れについて
認定の流れは簡単に以下のような流れになります。
事前認定と被害者請求ともに、治療が終わって症状固定したタイミングで後遺障害等級認定の申請手続きを始めることになります。
続いて、事前認定と被害者請求のそれぞれの流れについて説明をします。
● 事前認定の流れ
● 被害者請求の流れ
このように、被害者請求の場合は、被害者本人が「必要書類」を準備する必要があります。また、事前認定・被害者請求ともに医師から「後遺障害診断書」を作成してもらう必要があるということを覚えておきましょう。
3-4. 必要書類について
実際に後遺障害等級認定の申請をすることになった場合、手続きを行うために、以下の書類を用意する必要があります。
後遺障害等級認定の申請手続きに必要な書類
- 損害賠償額支払請求書
【発行者・作成者】請求者
- 交通事故証明書
【発行者・作成者】自動車安全運転センター
- 事故発生状況報告書
【発行者・作成者】運転者・被害者
- 診療報酬明細書
【発行者・作成者】医療機関
- 印鑑証明書
【発行者・作成者】市区町村
- 診断書
【発行者・作成者】医師
- 後遺障害診断書
【発行者・作成者】医師
上記の中でも、最も重要な書類が「後遺障害診断書」になります。この「後遺障害診断書」には
- 氏名、生年月日、性別、住所、職業
- 受傷日時
- 症状固定日
- 入通院期間
- 傷病名
- 既存傷害
が記載されています。
また、医師が症状固定後に後遺症の内容や他覚所見の有無、将来的な緩解の見通しなどを記載する物であるため、認定を受けられるかどうかを左右する非常に大切な書類になります。
事前認定の場合は、医師から作成してもらった「後遺障害診断書」だけを準備すればよく、残りの必要書類に関しては、加害者側の任意保険会社が用意することになります。
被害者請求の場合は、自分で書類を用意する必要がありますが、書類の不備・不足が発生した場合、申請手続きがやり直しになる可能性があります。よって、適宜、弁護士に書類のチェックをしてもらうことをおすすめいたします。