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今回のこの“相続土地国庫帰属制度”では、「この制度を用いて山林を手放すのは容易ではない」といった意見が多く聞かれます。では、それはいったいなぜなのでしょうか?こちらのページで解説していきたいと思います。
1. 山林を手放すのは容易ではないと言われる理由とは?
まず、相続土地国庫帰属法には国庫に帰属できない土地のリスト、いわゆるブラックリストがあります。このブラックリストに「山林」と具体的に明記されているわけではありませんので、山林はこの制度が利用できないというわけでは当然ありません。今回、注意しなければならないブラックリストは、以下の項目になります。
- 境界が明らかでないこと
- 所有名義が曖昧でないこと
この点において、山林の場合、次のような傾向があります。
- 境界が明確ではないことが多い
- 相続登記が未了で名義が先代・先祖のまま(死者名義)のことが多い
そのため、法律専門家の間では、山林を相続土地国庫帰属制度で手放すことは難しいといわれているのだと考えられます。この2点について、考察していきましょう。
1-1. 境界が明瞭ではないことが多い点
土地の境界は、明治時代に行われた「地租改正」で定められたものが基礎になっています。
もっとも、
- 「地租」(今でいう固定資産税)があまり見込めなかったこと
- 当時の測量技術が未熟だったこと
この2つの理由で、多くの山林では正確な測量が行われませんでした。
そこで、戦後、国土調査法が定められ、境界を正確に測りましょうということになりました。しかし、戦後70年以上経っても、地籍調査は50%ほどしか終わっておらず、多くの土地の境界が明確になっていないという状況があります。特に山林については、進捗率が46%で境界が不明確であることが多いといわれます(以下参照)。
そのため、法律専門家の間では、山林を相続土地国庫帰属制度で手放すことは難しいといわれるのです。もっとも、北海道、東北、九州など地域によっては地籍調査が進んでいるところもありますので、山林だから必ず相続土地国庫帰属制度が利用できないと考える必要はありません。
また、多くの専門家が誤解しているのですが、相続土地国庫帰属精度の利用の際に境界測量は必須ではありません。測量の実施や境界確認(お隣さんとの契約書)までは不要であり、土地の範囲を示せば足りるという方向で検討しています。
そのため、山林だから相続土地国庫帰属制度は利用できないと諦める必要は全くありません。なお、自分の所有する山林の境界が明確なのか知りたいという場合、法務局で公図を取り寄せてみると知ることができます。
したことのない方が当然多いと考えられます。自分でうまくできるか不安だという方、ぜひ一度当事務所までご相談ください。
1-2. 相続登記が未了であることが多い点
山林を相続土地国庫帰属制度で手放すことが難しいといわれるもう一つの理由に「相続登記の未了」という問題点があります。
相続土地国庫帰属制法では、「所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地」は制度が利用できないとされています。つまり、登記の名義が先代・先祖のままになっている場合、制度が利用できないということです。
また、山林については、相続登記が終わっていない土地が多いといわれています。法務省の調査によると、山林が多い中山間地域では26.6%の土地が最後の登記から50年以上経過している(≒相続が発生し相続登記が未了になっている可能性が高い)とのことです。
そのため、法律専門家の間では、山林を相続土地国庫帰属制度で手放すのは難しいといわれます。
しかし、逆に言えば、相続登記さえしてしまえば、この問題は解決するということです。また、2024年から相続登記は義務化されることとなっており、違反すると罰則があります。
そのため、相続登記が未了の場合には、相続登記を行って、不要な土地であれば、国に引き取ってもらう方向で検討することが良いといえるでしょう。ご自身の山林の土地の相続登記の手続について知りたい方、ご不安のあられる方は、是非一度、当事務所までご相談ください。
2. まとめ
以上2点が、「この制度を用いて山林を手放すのは容易ではない」と言われている理由になりますが、記載しました通り、ポイントさえしっかりと押さえれば十分可能であり、諦める必要は全くありません。
むしろ、相続土地国庫帰属制度を利用して国に帰属する際に必要となる負担金が、山林の場合は他の土地(農地や宅地)よりも低く抑えられているため、負担金の観点から見ると、山林は相続土地国庫帰属制度が利用しやすい土地と言えます。
相続土地国庫帰属制度を用いて山林を手放したい、と考えておられる皆様、一度是非、当事務所までご相談ください。